「待つ」ために大切な2つのこと

先日、我が家のマンションのエレベーター入れ替え工事が終わって安心しました。
とても古く、ガコガコ音がしていて(さらに不思議な匂いがいつも立ち込めていた)エレベーターに乗るのが怖かったんです。

新しいエレベーターはBGMまで流れていて快適そのもの。
一緒に乗った子供が「閉」ボタンを触ったら、ススっと音もなく扉が閉じてさらに感動。
最新機種すごい。

ところでみなさんは、エレベーターで「閉」ボタンを押しますか?
私も以前は押しまくっていたのですが、いまは「閉」ボタンを押さず、自動で閉まるのを待つようになりました。

待つようになったきっかけは、私が初めてカナダに行った時の出来事でした。

今回は、私のカナダの体験をもとに、「待つ」ために大切なことについて考えてみました。


Voicyミアビータ公式チャンネルで、毎週土曜日朝8時のパーソナリティを担当しています。
この記事は、2024年5月25日分を配信後、この内容を文章で読みたい方向けに加筆・編集したものです。
音声でお聞きになりたい方はこちらからどうぞ。


目次

初めてのカナダ滞在での「そわそわ」

カナダ人の夫は年に1回、カナダに帰ってしばし滞在します。

結婚後私も一緒にカナダへ行くようになりました。
初めてカナダに行ったのは、7年くらい前のことだったと思います。

この初カナダ体験は私にとってすごくインパクトがありました。いろいろなエピソードがあるのでこれから順次ご紹介していきます。

ある日、夫の家族と出かけた時のことです。

みんなでエレベータに乗りました。

ちょうどドア付近に立っていた私は、私たちと一緒に待っていた人たちが乗り込んだのを確認し、無意識に「閉」ボタンを押そうとしました。

すると義理の姉に「押さなくていいよ」と言われて手を引っ込めました。

ドアは開いたままです。
誰も気にする様子もなく、おしゃべりしたりぼぉーっと立っていて。

せいぜい数秒か10秒くらいだったはずですが、私はなぜかすごくそわそわしていました。

誰も急いでいないのに、私だけが急ごうとしてるように見えた気がして、なんとも言えない気まずさといいますか。

すると、子供が走ってエレベーターに飛び乗ってきました。
少ししてから杖をついたその子の家族がゆっくりゆっくりと乗り込んできたんです。
「閉」ボタンを押さなくてよかった、とほっとしました。

でもですね、そもそもエレベーターは自動ドア。
勝手に閉まるわけですから「閉」ボタンを押す必要はないのです。

実際この時は、「閉」ボタンを押さずに待っていたことで、乗れる人がいたわけですし、私は一体何を急いでいたんだろうと、あとでもんもんとしました。

カナダ滞在中、なんどかエレベーターを使う場面がありましたが、「閉」ボタンを押す人は誰もいませんでした。

もちろんカナダでも、オフィス街の朝とかなら急いでいる人も多いでしょうから、「閉」ボタン押す人もいるのだと思います。

ただ私の体験としては、押す人はおらず、自動でドアが閉じるのをみんな待っていました。
これには正直驚きました。

それから私は「閉」ボタンを押すのをやめました。
すると私の心に変化が起き始めました。

ドアが自動で閉まるまでの間、心に余白ができた気がしたのです。

いままでは、周囲の人の動きをみて「よし、みんな乗り込んだな!」ということを確認して「閉」ボタンを押していたことに気づいたのです。
ぼぉーっとただ待っていることへの罪悪感のような気持ちが働いていたこともありました。

エレベーターの「閉」ボタンを押さずに待つ。

ちょっとしたことではありますが、私が「待つ」ことができるようになったのは、2つの要因が関係していると考えています。

要因1:ネガティブ・ケイパビリティ

ひとつは、ネガティブ・ケイパビリティという能力です。

ネガティブ・ケイパビリティというのは
「すぐには答えの出ない、対処しようのないあいまいな状態に耐えて、その場に居続けることができる能力」です。

ネガティブ・ケイパビリティについてはこちらの本がわかりやすいです。
ご興味のある方はお手にとってみてくださいね。

本の詳細はこちらから

エレベーターで「閉」ボタンを押さず、自動でドアが閉まるまで待つ、というのはある意味、「ただ、待つ」という空白の時間に耐えていることになります。

一方、ポジティブ・ケイパビリティというものもあります。
問題をすばやく解決する能力、処理能力のことで、私たちが学校や会社の研修で学んで身につけているものです。

変化のスピードがとても速い時代で、お金についてはコスパ、時間についてもタイパなどと言われるようになりました。

とにかく効率が重視される世界に生きている私たちは、効率を求めて少しでも早く、先へ、となってしまうのだと思います。

早く、先へ進むためには、なにか問題があったらすぐ解決して白黒決着つける必要があります。

私は会社員時代、ベンチャー企業で長く働いていました。
この「速さ」と「効率」は常に求められていたし、実際速さと効率で評価もされていました。

つまり、このポジティブ・ケイパビリティを発揮しまくっていたんですね。
あのスピード感を思い出すだけでも、緊張感のあまり毛穴が開くような感覚になります(汗)。

じゃあネガティブ・ケイパビリティは普段は発揮してこなかったのか、というとそんなことはないんです。
私の場合は、発揮する割合が極めて少なかったというだけで。

誰しも「すぐにどうこうせず(できず)、しばし寝かせておいたら自然と問題が解決していた」という経験があるのではないでしょうか。

または、自分にはできないな、どうしようと考えているうちに、別の人がやってくれていた、みたいなことです。

こういうときは、その問題に対してネガティブ・ケイパビリティを発揮しています。
だからすぐに行動せずに待つことができているのです。

このように「待つ」ことで、一見行き止まりのように見えることにも別の道が見えたり、時間差で解決できるということが起きます。

要因2:信じること

もうひとつの要因は「信じることができるかどうか」です。

人は、信じることができれば、待つことができます。

エレベーターの話からは少し逸れるのですが。

いま、私が個人やチームにコーチングや対話の場を提供していて、改めて実感していることでもあります。
私は問題解決者として関わっているのではなく、相手の人(チーム)がもともと持っている力で解決するのをサポートしています。
相手(チーム)を信じて委ねているともいえます。

私が対話のときに待てるのは「相手の思考する時間や存在を尊重している」そして「相手が答えを持っている、答えを見つける力があると信じている」からです。

「どう?こっち?それともこっち?」「こうしたほうがいいよ」と自分主導で進めるということは、相手が自分で考えたり決めたりすることはできない、と思っている、つまり相手を信じていないということでもあります。

コンサルティングなど、そもそも問題解決を目的とした関わりの時はもちろん別です。

たとえばチームコーチングで、みんなで沈黙する時間があります。

気まずく感じることもあるかもしれませんが、声にださないだけで一人一人の心は動いていますし、チームとしてもそのエネルギーが動き続けています。
この沈黙の状態を尊重して待っていると、その場にいる人たちがもともと持つ力で場が自然と動いていきます

ただし、心から信じて委ね、待つためには自分の心の余裕も大切です。

私は対話のセッションの前は、最低30分はなにもしない余白時間をつくるようにしています。

私自身の心と体にスペースをつくり、余裕をもたせて相手を信じて待つことができるようにしています。

自分の人生のハンドルを握っていますか?

今回のエレベーターの話、よく聞くのは「日本人はせっかちだから」などの意見ですが、ほかにもおもしろい考察がありました。

「「閉」ボタンを押してドアが閉まる現象を起こすことで、自分でものごとを動かしている実感が得られる
というものです。

心理学者エレン・J・ランガー氏によると、「認知制御はとても重要で、「閉」ボタンがあることで、ストレスを減らし、満足度を高める」ということに関係しているそうです。

自分の思う通りにドアを動かしている、と認知することで、物事を自分が動かしているという感覚が得られるということなのかもしれません。

エレベーターで「閉」ボタンを押さずに待てるかどうかで、いまの自分の心の状態がわかるかもしれませんね。

思わずボタンを押したくなる時は、ストレスが高まっていて、せめて、エレベータのドアくらい自分の自由に動かしたい、そんな気持ちの表れなのかも知れません(心当たりあり)

自分の人生に満足して、ハンドルが握れている実感があれば、それ以外のこと、たとえばエレベーターの待ち時間のようなことは手放せて、待てるということだと思います。

前述のように私たち大人は、待ったり、手放すことで起きるいいことっていうのもたくさん経験しています。
適切にネガティブ・ケイパビリティを発揮し、信じる気持ちを大切に、どっしりかまえた大人でいたいものですね。

「待つ」ことについて「頭ではわかるんだけどな」や「なんとなくピンとこない」という方は、対話において「待ってもらえること」で自分に何が起きるのか、感じてみませんか。
きっとまだ見ぬ自分に出会えたり、可能性を感じる時間になるかと思います。

ご興味のある方はこちらの初回個別相談をぜひお気軽にご利用ください。


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